Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

妻の帰還

マッターホルン、アイガーの登頂を果たした妻が、昨日、無事帰国した。


アイガーはマッターホルンより登る人が少なく、慣れたせいか高度順応もうまくいき、快適な登山だったという。ただ技術的には氷壁などのあるアイガーのほうが難易度は高かったようだ。マッターホルンのほうはひたすら岩登りが続く体力勝負の山で、ルート途中にある小屋に出発してから3時間以内に到着しないと強制下山させられるそうだが、それも時間内で難なくクリア。アイガーでは、ガイドに「どのくらいのペースがいいか」と聞かれ、「このくらいゆっくりしたペースがいい」と言ったら、「これはゆっくりではなく早いほうだ」と驚かれたとのこと。どちらもガイドがしっかりサポートしてくれ、ルートファインディングなどに苦労しなくて済むこともあって、平均的な登山タイムより早かったという。


先日、NHKBSで放送していた「日本の名峰」という番組で、今井通子さん(アイガーなど三大北壁女性初登攀という快挙をなしとげた登山家)が、ヨーロッパの山は岩の質が花崗岩でザラザラしているが、日本の谷川岳などは変成岩でツルツルしているので日本の岩場のほうが難しい、と言っていた。残雪期の北アルプスの高峰や谷川岳などに登頂できる程度の技術・経験があれば、ヨーロッパ・アルプスもそれほど難しくはないということか。とはいっても、短期間で岩登りのテクニックを収得した妻のチャレンジ精神と集中力には感心するばかり。それになんといっても凄いのがスタミナと体力。ガイドさんも日本のおばさんパワーにビックリしたんじゃないかな。


ただ、妻が元気な姿でみやげ話を聞かせてくれるのはうれしいが…。なんだか私のついていけない世界にいるようで、少しサビシイ気も…。もしかすると日本人初の女性宇宙飛行士、向井千秋さんの帰還を待つ向井万起男さんもこんな心境だったのかしらん(といったら、向井万起男さんに失礼だが)。

マッターホルン登頂!

昨日、妻から国際電話があった。妻は今、スイスにいる。中年おばさんがスイスくんだりまで出かける目的はといったら、アルプスの少女ハイジの舞台を訪ねる優雅な観光の旅かなんかと思うのが普通だが、そうではない。彼女の目的はただひとつ、山に登るため。それもマッターホルン(標高4478m)、アイガー(標高3975 m)というヨーロッパアルプスの2大名峰に。どちらの山も現地の山岳ガイドを雇い、一般ルートをマンツーマンで安全を期して登るといっても、これまで何人ものアルピニストの命を奪ってきた高山。心配じゃないといえば嘘になる。が、電話では、最初のマッターホルンの登頂を果たし無事下山したということで、まずはひと安心。


4000m級の山々が連なるスイス・アルプスの中でも女王と呼ばれるマッターホルンは、山に興味のない人でも、名前とピラミッド型の特徴的な山容くらいは知っているだろう。写真で見る限りは本当に美しい山だ。でも、どうやって登るんだ? と、東北の低山徘徊専門の私は思う。そんな軟弱男toshibonとは違って、彼女は40代後半になって突如女性クライマーとして目覚め、今、自分の可能性に挑み続けている。正直な話、妻には経済力、決断力、体力、気力(気の強さ)、いずれの面でも太刀打ちできそうにない(というより、私が優柔不断で気弱すぎるのかもしれないが)。ただひとつ優位に立てそうなのは知力だが、私の場合は単に雑学知識が豊富というだけで、実生活、社会生活においては何ら役に立たない。完敗である。我ながらこんなに自虐的にならなくても、とも思うのだが…これも一種の屈折したオノロケ、ほんとは恥ずかしげもなくブログで妻自慢しているのかもしれない???
 


マッターホルンの登山ルート


マッターホルンへは頂上まで山小屋から出発して登り5時間、下り4時間かかったという。上の写真で赤い線で描かれた稜線(ヘルンリ山稜)を行くルートを登ったようだが、ほとんど休憩なしで急峻な岩場を登攀し、すぐに下降。妻は富士山(3776m)より高い山に登ったことがないので(国外の山行は今回が初めて)、高度順応が大変で体力的には相当きつかったようだ。それでも、世界中のアルピニストなら誰もがあこがれる山の頂に立ったことからくる充実感が、電話口から感じられた。


次のアイガーは28日に登る予定という。アイガーといえば、何といってもアイガー北壁(ちなみにアイガー、グランドジョラス、マッターホルンを登攀困難な三大北壁と呼ぶらしい)。クリント・イーストウッドの『アイガー・サンクション』、シルベスタ・スタローンの『クリフハンガー』(監督はレニー・ハーリン)などの映画でも知られ、数々の山岳小説の舞台ともなってきた「魔の山」だが、妻が登るのは、もちろん北壁ではない。最も容易だといわれる東山稜のルート(下の写真の左側の尾根)。とはいっても、難易度はマッターホルンより高いといわれる。
出発直前、たまたまアイガー東壁が崩落した映像をニュースで見て心配したのだが、現地の情報では登山に影響はないということだ。
 

アイガー北壁。左の稜線が東山稜ルート

東京日記 「武満徹─ Visions in Time 」展

初台の東京オペラシティー・アートギャラリーで開催されている「武満徹-Visions in Time」展を観覧した。


武満氏が関心を示した美術、文学、映画などの展示品によって、傑出した知性の持ち主であった音楽家の姿を多層的多面的に浮かび上がらせようというもので、東京オペラシティの音楽部門と美術部門の共同プロジェクトという。没後10年を記念した単なる回顧展を超えた内容で、個性的で好奇心にあふれた音楽家の世界を展示という形式で「見る」ということに、新鮮な興奮と感動を覚えた。


武満氏の創作にインスピレーションを与えた滝口修造、ジャスパー・ジョーンズ、イサム・ノグチ、パウル・クレー、オディロン・ルドンらのオブジェや絵画の数々、それだけでも充分見応えがあるが、 鉛筆による手書きの自筆楽譜、なかでも『ノヴェンバー・ステップス』の全スコアには釘付けになった。すぐれた美術作品といってもいいこの楽譜を見るだけでも、この展覧会に足を運ぶ価値がある。


この展覧会のためにデヴィッド・シルヴィアンがオマージュ(寄稿文)を寄せていて、2人に交流があったことを初めて知った。それによれば武満氏に坂本龍一を紹介したのはD・シルヴィアンで、3人で作品を一緒に作る話もあったという。坂本が芸大の学生時代に武満氏を糾弾したアジビラ(?)を作ったというエピソードがあるだけに、もしこのコラボレーションが実現していたら愉快だったろう。


展覧会の公式カタログは、通常の展覧会や美術展の図録というよりは、武満徹の最新の著作(単行本)を手にした趣があり、会場に展示された絵画や写真、オブジェ、楽譜などと対になるように武満氏が書き遺した文章を載せてある。アフォリズムに彩られた詩文のように瑞々しく静謐なことばが、音と視覚をともなって内面にすーっと沁みこんでくるようだ。


「人間は目と耳とがほぼ同じ位置にあります。これは決して偶然ではなく、もし、神というものがあるとすれば、神がそのように造ったんです。目と耳。フランシス・ポンジュの言葉に"目と耳のこの狭いへだたりの中に世界のすべてがある"という言葉がありますが、音を聴く時-たぶん、私は視覚的な人間だからでしょう-視覚がいつも伴ってきます。そして、また、眼で見た場合、それが聴感に作用する。しかも、それは別々のものではなく、常に互いに相乗してイマジネーションを活力あるものにしていると思うのです」(公式カタログ↓冒頭のエッセイ「Visions」より)
 
※Toshibon's Blog Returns「映画音楽 音を削る」


雨中の珍事

セ・パ交流戦ロッテ-巨人3連戦の最終戦を、昨日、幕張の千葉マリンスタジアムで観戦した。


先発は上原と渡辺俊介。試合開始直後からこぬか雨が降り続くあいにくのコンデションの中、WBCで大活躍した球界を代表するピッチャー同士の投げ合いで投手戦か、と思ったのも束の間、3回に渡辺俊がイ・スンヨプから2ランを浴びてしまう。ところが、ここで信じられないことが起こる。1塁走者の小関が3塁を踏んでおらず、サードの今江のアピールでアウト。2アウトだったので、イ・スンヨプのホームランも取り消され(記録はシングルヒット)一瞬にしてチェンジとなった。初めは私も含めて観客の多くは何が起こったかよく飲み込めなかったが、場内に塁審の説明が流れると、もう大歓声、私も見知らぬ人とハイタッチで大騒ぎ。


ベースを踏んでなかったため幻となったホームランはよく知られている長島など過去にもあるが、前走者のミスで取り消されたのは日本野球史上初だという。結局、この珍プレーが響き、最後はロッテの守護神小林雅が締め、フランコ、里崎、大松のソロ・ホームラン3発でロッテの競り勝ち(3-2)。対巨人6戦全勝で今季最多の貯金12。巨人にとっては後味の悪い試合だったが、マリーンズ・ファンのこちらとしては、雨の中力投した渡辺俊(今年はいまいち調子がでないけど)、3発のホームランに加えて、「珍事」も見られたし、球場に足を運んだ甲斐のあるゲームだった。


JR海浜幕張駅に降りると、マリーンズのマスコットがお出迎え。


霧に煙るマリン・スタジアム。試合が始まり、人工芝の緑がカクテル光線に映えるダイヤモンドに選手たちが散り、それぞれのポジションにつく。野球観戦でもっとも気分が高揚するとき。


渡辺俊介とイ・スンヨプの対決。イ・スンヨプは昨年まで在籍したロッテ戦でなぜかよく打つ。この日は4打数4安打(そのうちの1本が幻のホームラン)。


右翼席と一塁側内野席はマリーンズ・ファンでほぼ満席。


試合が終わっても熱狂的なファンは選手たちを称え、球場の外で気勢をあげる。

WBC雑感

野球の世界一を決めるというふれこみで始まったWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)。毎年恒例の年度末の〆切でウルウル状態になりながらも、試合の行方が気になってしょうがなかったが、終わってみれば日本が優勝。まだその余韻に浸っている。


今回は特にイチローの言動が話題になった。普段はクールなイチローの変わりぶり、激しい闘志と愛国心の発露に驚いた、という感想を多くの人が抱いたようだ。だが、イチローはもともとあんな奴なのである。野球に対する敬意と情熱は誰にも増して熱く激しいし、発言にしたって、これまで日本のスポーツ選手があまりいわなかっただけで、他国のアスリートの発言として聞くと特別過激なわけでも愛国的なわけでもない。もちろん、イチローのことだから、WBCの注目度から自分が言ったことがメディアで大きくとりあげられるのは計算しての言動だったろう。ただ、いわゆる30年発言が韓国であれほど反発を買うとは計算外だったに違いない。韓国のマスコミ(特に新聞)は、こと日本がからむと影響力の大きい一般紙でさえ東スポ並の記事を平気で書く(と言ったら東スポに失礼か)。「30年発言」も韓国という特定の国に向けての発言ではなかったのだが、マスコミがこれを(意図的に)曲解してセンセーショナルに取り上げ、ナショナリズムを煽る格好の題材にした。
(サッカーの2002年ワールドカップの時、精神科医の香山リカは自国チームの活躍に熱狂する日本の若者たちに対し、プチ・ナショナリズムという全くとんちんかんな指摘をして悦にはいっていたが、韓国の病的なまでのナショナリズムには、彼女はどんな言説をもって対処するのだろうか)


今回の日本チームのメジャーリーガーはイチロー、大塚の2人だけで、松井(秀喜)、井口、城島などは参加しなかった。井口は2年目の大事な年だし、城島はマリナーズに入団したばかりで参加しなかったのは理解できる。だが、松井に関しては(結果論だが)選択を誤ったかなとも思える。これまで人気の面では松井が上だったが、WBC後はイチローファンが急増したようだ。


ただ、イチローは松井と違って誰からでも愛されるわかりやすいキャラではない。そのプレースタイルからゴキロー(ゴキブリヤロー)という蔑称も頂戴しているし、野球ファンの間ではアンチも多い。基本的にエフリコギ(エエカッコシイ)、ガンコでヘンクツ、ちょっぴりナル(シスト)が入っていて、何よりプライドが人一倍高い。オタク的なところも多々ある。かなりヘンな奴なのである。toshibonもイチローと同じ天秤座B型だからわかるのだ(ほんとか?)。だから、今回の活躍と言動(特に愛国的な)でにわかファンになったという人は、そのうち裏切られるかもしれない。それもまたイチローらしいとは思うが。


それにしても、オリンピックでの急ごしらえの球場ではなく、メジャーリーグの球場、それも大観衆の中での試合。やっぱり野球のNO.1を決めるとしたら、こうでなくては。あと、メキシコには感謝しても感謝したりない。コロナビール最高! フリーダ・カーロありがとう! ミル・マスカラス万歳! なんのこっちゃ?