Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

続・東京日記 夜の相生橋

門前仲町で一杯やったあと、清澄通りを酔い醒ましがてら塒(ねぐら)のある勝どきまで歩く。途中、相生橋を渡る。この橋は隅田川の派川に架かる橋で、すぐ近くの本流に架かる永代橋や清州橋と較べて知名度は落ちるが、とても好きな橋だ。これを渡ると江東区越中島から中央区佃島~月島に入る。



相生橋の歴史についてはこのサイトが詳しい。それによると、先代の橋は関東大震災の復興橋梁だったが、老朽化のため平成12年(2000年)に現在のトラス橋に架け替えられた。トラスとは、細長い部材を三角形に繋ぎ、それを繰り返して桁を構成した構造をいい、様々な形状のトラス橋がある。相生橋は斜材を「V」字に配置したプラットトラスという構造に分類される。

平行弦プラットトラス



 



近くに石川島、遠くに豊洲の高層マンション群がきらめき、幾何学模様の鋼鉄の支柱が
街灯と車のヘッドライトに照らされ、川面に月の光がゆらめく。こうした人工の建造物が、夜の水辺の都市空間に浮かびあがる光景は、幻想的で美しく、橋の上にしばし佇み眺めた。




顔を知られたくない映画監督

成瀬:いくつになってもまだ買い物ができないんだな。一人でデパートに行っても、そこらの店屋でも買うのはきまりが悪くてしょうがない。
人と話すのは私は口下手で嫌いですが、一人で歩くのは好きでして、暇があると一人でぶらぶら歩いているのですよ。顔を知られたりすることが大嫌いですからね。なるべく知られないような所をごそごそ歩いているのが好きなんです。
自分では一人でやれる仕事が一番好きですね。
(筈見恒夫との対談での成瀬巳喜男の発言-『映畫読本・成瀬巳喜男』フィルムアート社-より)


この「顔を知られたりすることが大嫌い」というのが、とてもよくわかる。私もそういったタイプの人間だから。例えば日常生活で利用する商店(八百屋、肉屋、パン屋、食堂など)などで、店主や店員に顔を覚えられ親しく話しかけられたりすると、次からもうその店へは行けなくなる。群衆の中に匿名の人間としてまぎれていたい、といった心理が少しは働いているのかもしれないが、顔を覚えられたくないという感情が全く「無名の人」になりたいのと同じかというと、違う。照れ屋とか恥ずかしがりやだからというわけでもない。実はその反対の、自意識過剰の裏返しがそうさせてしまうような気がする(と自己分析している)。
それにしても、内気で一人でやれる仕事が好きという人(成瀬巳喜男の父は刺繍の職人だったという)が、よりによって映画監督で名をなすとは、わからないものである。


希望と悲しみ

身体から異物が消えて、忘れかけていた想いでが、匂いの記憶のように
ふいにおとずれくる、朝……。
懐かしい友人「クヌルプ」が親しげに目の前に現れ、私を遠くへ誘う。
石畳の街路、窓のあかり、冬の旅。
どうしてこんなに悲しいのか。なのにささやかな希みが暖かく私を包み込む。

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いちじくの甘露煮

庭にいちじく(無花果)の木がある。数年前に亡くなった私の母はとても気性の激しい人で、カラスが果実を食べるのに腹を立て、それならと(カラスに食べられるくらいならと)業者に頼んでいちじくの木を伐ってしまった。ところが、いちじくは生命力旺盛な木のようで、その根元から蘖(ひこばえ)が生え、前にも増して立派な木に成長し、今年は数えきれないほどの果実が実った。熟したのを放っておくとカラスに全部食べられてしまうので(木を伐った母と違って私はいたって気弱な人間なので)あわててもいだのはいいのだが、とても一度に食べきれない。それでネットで一番簡単にできるレシピを探して、初めて甘露煮をつくってみた。


こうしたカラスの所業に癇癪をおこした母。今生きていたら、また木を伐ると言うだろうか。


フライパンにいちじくを並べ、砂糖・酢を振りかけてIHヒーターの弱火で2時間くらい煮詰める。IHヒーターならしばらく放置していても、焦げ付かないので楽ちん。ところが酢を多く入れすぎてしまったみたいで、できあがりはいまいちのヘンな味に。


初めてつくったいちじくの甘露煮。見た目はおいしそうだけど、その出来栄えは……


そこで2度目は砂糖でじっくり煮詰めてから、最後にワインとポッカレモンで味付けをしてみた。ワインを入れると甘さもほどよい大人っぽい味になって、こちらは結構イケるかも(↓)。いちじくの食べ過ぎは身体に悪いので、一度に食べるのは2個くらいで我慢。たくさんつくったので、冷凍して少しずつ食べることにした。








イタリアの湯治場つながり

友人のブログに、最近買った本が列記されていて、その中にチェーホフ「可愛い女・犬を連れた奥さん」(岩波文庫)があった。また、20年ぶりに見たというアンドレイ・タルコフスキーの「ノスタルジア」(1983)の感想もアップされていた。
「犬を連れた奥さん」と「ノスタルジア」。このふたつ、作者がロシア人というほかに共通点がある。
 
ロシア人の映画監督ニキータ・ミハルコフがイタリアに招かれて撮った映画に「黒い瞳」(1987)があった。ロシア人の人妻に恋をしたイタリア男の物語というこの映画の基になったのが「犬を連れた奥さん(子犬を連れた貴婦人)」。映画の舞台はイタリアの湯治場で、ロケ地はたぶんトスカーナ地方の高級温泉保養地、モンテカティーニ・テルメではないかと思われる。「ノスタルジア」にもトスカーナ地方の湯治場(バーニョ・ヴィニョーニというリゾート地)の温泉広場が登場する。

「黒い瞳」「ノスタルジア」は北の国(ロシア)の監督が南の国(イタリア)の温泉保養地を舞台に撮った、イタリアの湯治場つながりの映画。友人のブログで見つけたどうでもいいような、偶然の符合。ただそれだけの話 。

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