Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

アイルランド、旅の想い出(2002)

    アイルランド島の内陸部を西から東へ走り続け、ダブリンへあと40~50キロ、1時間くらいで着くというところにキルコックという街があった。ただ通り過ぎるつもりで車を乗り入れたら、おりしもサマー・フェスティバルの真っ最中。街の広場でダンス・コンテストが行われており、車を降りて私たちも大勢の観客にまぎれ、陽気なお祭りの雰囲気に浸った。
 仮設ステージ上の生バンドの演奏に合わせ、十数人の男女がペアになったり、3~4人の組になったりして、アイリッシュ・ダンス独特のステップを踏む。アイリッシュ・ダンスといえば日本公演も行われたリバーダンスが有名で、確かにダンスパフォーマンスとしては素晴らしいが、あれは伝統ダンスをアレンジしてショー風に振付けたもの。たとえて言えば、WZのソーラン節のようなものだ。
 ショー化されたダンスやパブで聴く生演奏とはまた違った、日常生活に根ざした庶民的な音楽と踊り。車での短い旅の最後の最後に、アイルランドの人々の飾り気のない明るく楽しげな姿、アイリッシュ・ミュージックの原点のようなものを見ることができ、本当に感動した。
 街を流れる運河に沿ったレストランの前で、高校生くらいの少年少女たちがアコーディオンを奏でていた。軽快なリールのリズムが心地よく響く。7日間のアイルランドの旅で、通りすぎただけなのに印象深い街…ポートラッシュ、デリー(ロンドンデリー)、ドネゴール、ウェストポート…、そしてこのキルコック。できるなら一泊して住人とともにお祭り気分を共有したい。そんな去りがたい思いを抱きつつ、街を離れた。女の子の弾くアコーディオンの音色が、街を出てからもしばらく耳に残った。


アコーディオンを弾くキルコックの若者たち