Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

東京日記 「武満徹─ Visions in Time 」展

初台の東京オペラシティー・アートギャラリーで開催されている「武満徹-Visions in Time」展を観覧した。


武満氏が関心を示した美術、文学、映画などの展示品によって、傑出した知性の持ち主であった音楽家の姿を多層的多面的に浮かび上がらせようというもので、東京オペラシティの音楽部門と美術部門の共同プロジェクトという。没後10年を記念した単なる回顧展を超えた内容で、個性的で好奇心にあふれた音楽家の世界を展示という形式で「見る」ということに、新鮮な興奮と感動を覚えた。


武満氏の創作にインスピレーションを与えた滝口修造、ジャスパー・ジョーンズ、イサム・ノグチ、パウル・クレー、オディロン・ルドンらのオブジェや絵画の数々、それだけでも充分見応えがあるが、 鉛筆による手書きの自筆楽譜、なかでも『ノヴェンバー・ステップス』の全スコアには釘付けになった。すぐれた美術作品といってもいいこの楽譜を見るだけでも、この展覧会に足を運ぶ価値がある。


この展覧会のためにデヴィッド・シルヴィアンがオマージュ(寄稿文)を寄せていて、2人に交流があったことを初めて知った。それによれば武満氏に坂本龍一を紹介したのはD・シルヴィアンで、3人で作品を一緒に作る話もあったという。坂本が芸大の学生時代に武満氏を糾弾したアジビラ(?)を作ったというエピソードがあるだけに、もしこのコラボレーションが実現していたら愉快だったろう。


展覧会の公式カタログは、通常の展覧会や美術展の図録というよりは、武満徹の最新の著作(単行本)を手にした趣があり、会場に展示された絵画や写真、オブジェ、楽譜などと対になるように武満氏が書き遺した文章を載せてある。アフォリズムに彩られた詩文のように瑞々しく静謐なことばが、音と視覚をともなって内面にすーっと沁みこんでくるようだ。


「人間は目と耳とがほぼ同じ位置にあります。これは決して偶然ではなく、もし、神というものがあるとすれば、神がそのように造ったんです。目と耳。フランシス・ポンジュの言葉に"目と耳のこの狭いへだたりの中に世界のすべてがある"という言葉がありますが、音を聴く時-たぶん、私は視覚的な人間だからでしょう-視覚がいつも伴ってきます。そして、また、眼で見た場合、それが聴感に作用する。しかも、それは別々のものではなく、常に互いに相乗してイマジネーションを活力あるものにしていると思うのです」(公式カタログ↓冒頭のエッセイ「Visions」より)
 
※Toshibon's Blog Returns「映画音楽 音を削る」