Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

胃ガン?

先月に行なった市の健康診断の胃ガン検診(X線検査)で、「異常の疑いあり」の通知が来た。胃の出口、十二指腸につながる幽門部というところに腫瘍らしき隆起があるので医師による精密検査を受けてくださいとのこと。


これまで健康診断には一度もひっかかったことはなかったので、まさかとは思ったが、やっぱり心配になってすぐにN総合病院の消化器科を受診した。ところがやたら混んでいて、医師宛の紹介状を持っていっても2時間近く待たされ、あげくに内視鏡(胃カメラ)検査は予約制なので来週あらためて来てくださいと言うではないか。ハァ?とは思いつつも検査の予約をして帰り、妻にそのことを話すと、「不安をかかえて一週間も待つなんて、病気じゃなくても病気になってしまう。明日別の病院に行ってすぐに検査してもらいなさい! ったく、優柔不断なんだから!」と一喝されてしまう。その通りなので(私の決断力のなさを責める妻の言うことは、ほとんどの場合正しい)、以前診察してもらったことのあるY内科を受診。胃カメラを飲むのは3回目。あまり気持ちのいいものではないが、今回はカメラを入れている間中、若い看護婦さんが背中をずっとさすってくれるというサービス?付きだったので、意外なほどリラックスできモニターを見る余裕もあった。モニターには確かに幽門部のところにポリープ状のふくらみ(びらん)が映っていた。が、悪性のものではないから放置しておいても心配ないものらしい。それ以外は胃壁はきれいで特に問題はない、と医者は言う。つまり…異常なしとのこと。エッ、ホントに???


私の父は10年前に肝臓ガンで亡くなっているし、母は子宮、直腸、大腸、と3度のガン摘出手術をしている(未だ存命、凄い生命力!)。母は8人兄弟だが、すでに亡くなった5人のうち4人はガン、それも長兄と次兄は50代で胃ガンで亡くなっている。まさにガン体質の家系である。それに私はもともと胃が丈夫なほうではなく、仕事での寝不足やストレスが続くと最初に変調をきたすのが胃で、いまも時々嘔吐や食欲不振に悩まされる。そんなこんなで、今回はもしかすると…、ついにきたかな…、などとマイナス思考になったことは確か。
で、そんなふうに思うと、これまでなんともなかった胃がほんとにシクシク痛みだしてくるのだから、不思議なもの。
でも、異常がなくてよかった。ほんとに…。みなさんも気をつけて…。

仕事がなければ単なる無職

「フリーライターというものは誰にでもなれる。〃今日からわたしはフリーライターなのよ〃と世間にいえばその瞬間からその人間はフリーライターなのである。それは、画家でもミュージシャンでも小説家でも同じだ。あとは仕事があるかないかだけだ。仕事がなければたんなる無職である。その身で下手に犯罪でもすると、世の人々から〃やっぱり無職だからなあ〃と思われる立場である」と何かに書いていた永沢光雄さん。


この人の『AV女優』や『風俗の人たち』(筑摩書房)はとても面白かった(『風俗の人たち』が図書館の「民俗学」「風俗習慣」の棚にあったのがおかしかった)。基本的には私も「仕事がなければ単なる無職」のその日暮らしの生活を長い間続けてきた人間である。だから、永沢さんの言うことが実感をともなってグサッとくる。
その永沢さんが43歳で下咽頭ガンを患い、手術で声を失ったということを、新聞に載っていた新作『声をなくして』(晶文社)の書評で初めて知った。読んでみよう。

山中湖の旅

2週間ほど前、山中湖(山梨県)に行ってきた。妻の友人2人が、私を彼女たちが常宿にしているという山中湖畔のペンションに招待してくれたのだ。
山中湖を訪れたのは、学生時代に富士五湖をめぐり歩いて以来30数年ぶり。宿泊した「ペンション・モーツァルト」は、標高約1000mの新緑の森の中にあった。


オーナーのNさんはスピリチュアルな雰囲気を持つ芸術家肌の人。私たちが館内に入り、リビングルームに腰を落ち着けるなり、アクアダイビングと天体の話をし始めた。泊まり客が集うサロンともいえるリビングには、オーナーの精神世界を反映した様々なオブジェ、コレクションが所狭しとおかれている。1万冊の蔵書、4000枚のレコード、2000本の映画、壁にはムンクの素描、Nさん自身が撮影した天体写真、圧巻はびっしり並べられた熱帯魚の水槽…


Nさんはモーツァルトのホームページに、「東はガラパゴスから西はセイシェルまで赤道直下の海はほとんど潜って制覇してしまいました」「本能的に水に惹かれる。水の中に住むわけにもいかないので、せめて水の近くにということで、ペンションも湖畔に建てました」と書いている。そのことばからもうかがえるように、熱帯魚の飼育は趣味の範疇を逸脱しており、ペンションそのものが深海にたゆたう究極の“水オタクの館”のように私には思えた。


ペンション・モーツァルトのリビングルームには、LP・LDがうず高く積み上げられている一角がある。その一番上に“水の映画作家”A・タルコフスキーの『ノスタルジア』があった。私がF・トリュフォーの作品中2番目に好きな『ピアニストを撃て』も。オーナーと私の映画の趣味は似ている?

山中湖村立三島由紀夫記念館前の満開のズミの花。山中湖畔にはズミの木が多い。5月下旬~6月上旬にかけて白い花が咲く。


富士山五合目須走口から小富士(1906m)へと続く樹海の中を歩いた。

会津再訪

先週から今週にかけて福島県の会津地方に行ってきた。メンバーは私のほかに無明舎出版のAさん、ライター仲間のFさん、S社の編集者Rさんの総勢4人。Aさん、Fさんが会員となっている「とうほく街道会議」が主催する旧街道のウォーキングに参加がてら、会津で一杯やるという硬軟まぜた小旅行だった。


「とうほく街道会議」とは、街道や宿場を町おこしに活用したり、街道歩きをしてかつての道沿いの様子を考えたりするグループが集まって結成したもので、Aさんはその幹事を務めている。奥会津の三島町から昭和村へ抜けるおよそ5キロの道のりを約3時間かけて歩いた。この山道はかつて銀山街道と呼ばれ、江戸時代には幕府の巡見使が通った道でもある。初夏を思わせる明るい日射しが影をつくる新緑のブナ林を抜けたところにある峠は、その名も「美女峠」という。


周囲を山に囲まれた盆地の城下町会津若松は、私が6年前に人生の節目となるある重大な決断をした場所で、そんなことからも個人的に思い入れが強く忘れ難い街だ。夜は6年ぶりに訪ねた「籠太」という思い出深い居酒屋で、会津の郷土料理と酒を堪能した(ただし、店自体はこの春に移転し、すぐそばで経営していた「ふくまん」を改装した新店舗で営業している)。
※会津居酒屋「籠太」HP


籠太のご主人はいかにも会津人といった質実さと簡単に妥協しない頑固さを持った人のように見受けられる。ただ、同じ頑固さでも津軽の〃じょっぱり〃、高知の〃いごっそう〃などのような理不尽?な我の強さ、押しの強さは感じられない。会津人の気質は、会津の三泣きといって、よそから来た人はまずとっつきにくさに泣く、次に人情のよさに泣く、最後に離れがたくて泣く、のだという。


街を歩いていて見かけたポスター。
「会津を訪れるひとは 日々の流儀に泣かされ…」
いかにも会津らしいと思いませんか。

太陰暦の映画


成瀬巳喜男監督の1954年の作品『山の音』には、原節子が月明かりに照らされて井戸水を汲むシーンがある。水汲みを終わって原節子は「お母さま、美しいお月さま」と、義母役の長岡輝子に言う。9月から10月にかけて放送されたNHKBS2の成瀬巳喜男監督特集で再見して、このシーンに漂っている神秘的ともいえるエロチシズムと、映像のあまりの美しさに震えるような心地がした。


最も重要なスタッフとして成瀬映画を支えた美術監督・中古智は、名著『成瀬巳喜男の設計』(蓮實重彦と共著・筑摩書房)で、「芽生えを豊富に含んだ水は大地、動物、女性を豊饒多産にする。万物生成の支えである水は月に比較され、直接月と同一され、月のリズムと水のリズムとは同じ運命によって競争し合う」というミルチャ・エリアーデの言葉を引用しながら、月と女と水汲みを長々と見せたシーンの中に、成瀬監督は原節子(役名は菊子)の肉体の変調=懐妊のイメージをみせていたのだろう、と述べている。


私たちは今、太陽のリズムだけで成る太陽暦の時間を生きているが、これに対し月のリズムから成る月の暦がある。月のリズムは女のリズム(周期)でもある。成瀬映画は太陽暦ではなく太陰暦の映画であることには違いない。

山の音 【東宝DVDシネマファンクラブ】
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2014-09-17
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