Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

きまぐれに1曲⑬ ハーヴェスト・ムーン

退院してからしばらく静養していたが、体力回復のために数日前から日が落ちて涼しくなってからウォーキングを始めた。その際、ICレコーダーで音楽を聞きながら歩くのだが、歩行のリズムとマッチした曲が鳴ると、自然と歩くのがとても楽しくなる。レコーダーに入れていた曲のなかで、歩行と曲のリズムが一番ぴったり合ったのが、この「ハーヴェスト・ムーン」。ニール・ヤングが1992年にリリースした同名タイトルのアルバム「Harvest Moon」の収録曲だ。これをエンドレスで流しながら歩いていると、いつまでもどこまでも歩いていけそうな気がしてくる。

Neil Young - Harvest Moon


1970年代の初め、ニール・ヤングの初期の傑作とされる「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」(1970)、そして「ハーヴェスト」(1972)をよく聞いていた(おまけにニール・ヤングにあやかってチェックのシャツをよく着ていたw)。なので、彼の声を聞くと、当時の自分の周りの風景や人や街の匂いが一瞬にして甦る。この「ハーヴェスト・ムーン」はアルバム「ハーヴェスト」と関連づけられもするが、ゆったりしたサウンドと滋味あふれる穏やかな声は、歌詞(↓)の内容と相まって20年の時を経た円熟味を感じさせる。


Because I’m still in love with you
I want to see you dance again
Because I’m still in love with you
On this harvest moon


「ハーヴェスト・ムーン」とは「収穫月(満月)」。つまり日本で言う「中秋の名月」にあたるのだろう。実りの秋にかけて円熟期を迎えた男女を歌った何の変哲もないラブソング。ありふれたコード進行と反復メロディーの繰り返し。なのに不思議と心が満たされる実に豊かな音楽。ニール・ヤングの変わらぬ声、そしてシンプルなハーモニカの音色が、病み上がりの心と身体を癒してくれる。

入院なう!

この10年来、悩まされ続けてきた病気の外科的治療のため、東京郊外のT市にある某大学病院に入院している。手術は無事終わり、術後の経過も順調。今は退院に向けてひとつずつ回復への段階を踏んでいるところ。


手術によって身体の一部が改変されてしまい、これまで普通にできていたことができなくなる。慣れるまで日常生活でいろいろ支障をきたすことがあるだろう。でも、命にかかわるわけではないし、外見上の変化もない。
まあ、生きていればこんなこともある。悲観は全くしていない。


8階にある病室の窓からは、狭山丘陵(トトロの森)が見える。関東地方の梅雨明けも間近だが、今年の関東の7月は記録的な日照不足ということで、入院してから毎日がどんよりした曇り空、丘陵は小雨に煙り、雨を吸って緑色をますます濃くしていた。
これまで、1週間以内の短期入院は数度経験しているが、数週間に及ぶ長期入院は初めて。全身麻酔による手術も初めて。そして日々、こんなに曇り空だけを眺め続けたのも初めての経験だった。(このブログでのスマホからの投稿も初めて)


久しぶりの青空。梅雨明けも近い。一気に暑くなるだろう。

吉田初三郎の種差海岸

青森県八戸市へ行ったついでに種差海岸まで足をのばしたら、葦毛崎展望台の周辺でニッコウキスゲが今を盛りと咲いていた。

紫色の花はニッコウキスゲと同時期に咲くノハナショウブ


葦毛崎から大須賀海岸、白浜、深久保漁港を経て種差天然芝生地まで続く遊歩道(「みちのく潮風トレイル」の一部)が整備されている。海づたいに行くこの道を歩くのは楽しい。

中須賀海岸を延びる「みちのく潮風トレイル」の道


鳥瞰図絵師・吉田初三郎は、戦前から戦後にかけて種差海岸に別邸兼アトリエを構えて創作活動の拠点としたという。
そのアトリエ跡のすぐそばに建つ民宿「石橋」に、数年前に泊まったことがある。

吉田初三郎邸宅跡


民宿「石橋」に飾ってあった初三郎邸「潮観荘」の写真


泊まった部屋からは、跡地の向こうに海岸の天然芝生と太平洋が見える。この風景を前にすると、ここを画業の拠点にした初三郎の気持ちがわかるような気がする。

早朝の種差海岸天然芝生地


ギャラリー 吉田初三郎 八戸クリニック街かどミュージアムhttp://www.ne.jp/asahi/machikado/enjoy/collection/5_yoshidahatusaburou1.html

気まぐれに1冊⑧ 『すゞしろ日記』

この間、たまたま点けていたTV(NHKの大河ドラマのタイトルバック)に山口晃さんの絵が出てきた。それで久しぶりに『すゞしろ日記(弐)』を手にとってみた。藝大出身の人気画家(以下、親しみをこめて画伯)のエッセイ漫画=絵と吹き出しによるエッセイ集=とでもいうべきもので、これまで3冊出ている。私が持っているのはそのうちの2巻目で、1巻目(壱)は図書館から借りて読んだが、3巻目(参)は読んでいない。


画伯は1969年生まれというから、今年で50歳だけど、これを描いていたのは30代後半のころ。初めて読んだ時は、それにしては随分年寄り臭いなあ、スッキリした風貌や緻密でシニカルな画風から想像していたのとは違って渋くて可愛い!? というのが読後の感想だった。


画家は在宅仕事が基本の居職。自ら「絵を描く事が不自由」という遅筆で知られる画伯の創作の日々、その合間の日常が綴られる。蘊蓄や諦観、細かいこだわりと奥さんとのやりとり。なかでもこの日記でひときわキャラが立っているのが奥さん。『すゞしろ日記』は実は『愛妻日記』ではないかと思うほどに、奥さんとのエピソードが多くを占める。


B型の奥さん、O型の画伯。なかなかお似合いというか、仲が良い。ちなみに私の妻はO型、私はB型。山口家とは反対だけど、O型とB型の夫婦は相性がいいんです。なので共感するところ、笑えるところが多々あり。たとえば、看板(パッケージ)と中身の乖離(カイリ)についてのあれこれを述べた回でのやりとり―奥さん「あたしの一番の看板の違いはアンタだね。物静かで大人な人かと思ったけど…」 画伯「フンフン 思ったけど?」     奥さん「うるさくてガキ」―


正直に言うと、現代美術家としての山口画伯の絵はそれほど好きではない(「あんた何様?」的な物言いでスミマセン)。ただ、池上遼一を敬愛するという画伯の漫画家との親和性には引き付けられる。私の敬愛してやまない大友克洋、山岸凉子、江口寿史、諸星大二郎…これら漫画家と画伯のような画家との違いは何だろうか?  


すゞしろ日記 弐
すゞしろ日記 弐
羽鳥書店

きまぐれに1曲⑫ 夜と雨のワルツ

雨の曲シリーズ2曲目は、雨がさっとあがった後にキラキラまぶしい太陽に包まれる「雨に消えた初恋」とは打って変わって、暗く沈んだ夜の雨を歌った曲を。



畠山美由紀 / 夜と雨のワルツ


「夜と雨のワルツ」は、畠山美由紀の6枚目のオリジナルアルバム(2013年6月発売)『rain falls』の収録曲。詞・曲とも畠山美由紀(作曲は中島ノブユキとの共作)で、雨にちなんだ曲を集めているアルバムの中から、この曲だけYouTubeにオフィシャルとしてあげられている。


畠山美由紀はいまいち地味な印象があるが、宮城県気仙沼出身ということも含めて、アルバムが出たら聴きたくなってしまう気にかかる歌手のひとりだ。2001年のデビューから通算14枚ものアルバムを出していて、日本の女性歌手のなかでは幅広い音楽性と歌唱力を備えた稀有な存在といえるかもしれない。


昨年暮にリリースされた7枚目となる『Wayfarer(ウェイファーラー)』もポップな味わいのある力作で、収録曲のひとつ「呼吸するより速く」は彼女でしか書けない(歌えない)恋の歌で、その官能性と昏いパッションにあっけにとられてしまった。

Wayfarer
Wayfarer
Rambling RECORDS
2018-12-14
ミュージック