Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

美大図書館のシネマライブラリー

押井守の『イノセンス』を見ようと映画館に行ったら、あらあら、2週間前に上映が打ち切られていた。やっぱり、鈴木敏夫プロデューサーが参画して糸井重里なんかにキャッチ・コピーを作らせても、スタジオ・ジブリ作品のようなわけにはいかないんだなぁ(特にこんな地方都市では)。最大の観客層である女性は、何となく嗅覚で(近づかないほうがいいと)見抜いてしまうのだろう。カップルで見る映画でもないしね…。


時間がポッカリ空いてしまったので、川向こうの美術工芸短期大学に久しぶり寄ってみた。10年ほど前にこの近くに住んでいたので、時々、学生食堂や喫茶店、図書館などを利用させてもらっていた。訪ねるのは3年ぶりくらいか。


ここの図書館は美術工芸大学という性格から、当然のごとく美術関係の書籍が充実している。それと特筆されるのがビデオ、レザーデスクのマニアックな品揃え。エイゼンシュタイン、グリフィスなどの古典をはじめ、セルゲイ・パラジャーノフやアンドレイ・タルコフスキーの作品が揃っている。
何より驚くのが、ダゲレオ出版で発売しているアート系のレザーデスクの充実ぶり。アレクサンドル・ソクーロフの『静かなる一頁』やパトリック・ボカノウスキーの実験映画『天使』など、いったい誰が見るんだろう。


これまで気がつかなかったが、『イノセンス』に通底するパペット映画-イギリスの双子の兄弟、ブラザーズ・クエイの『ストリート・オブ・クロコダイル』、チェコのイジー・バルタの『闇と光のラビリンス』など、有名な人形アニメーション作家の作品も棚に並んでいる。この図書館は貸し出しはしていないので、そのうち再訪して館内でゆっくり鑑賞することにしよう。


それにしても、こんなところにこんなお宝ビデオがあることを、この街にひっそりと生息しているであろう押井守ファン、もといアンドロイドおたく、パペット・フリークは知っているのだろうか。

温泉宿の朝ご飯

岩手県湯田町の湯本温泉は、全国に数ある湯本(湯元)温泉の中では、知名度は低いほうかもしれない。旅館数は7軒。ちょっとした歓楽的な雰囲気もある温泉町だが、湯の町情緒を醸すほどではなく、かといって湯治場でもないため、温泉場としてはどこか中途半端なのは否めない。


先週、この町に住む友人と一杯やるため、一夜、温泉街のほぼ中央にある旅館山田屋に泊まった。ここに泊まるのは3度目。風呂は何の変哲もないタイル張り、お湯も集中管理の混合泉、温泉宿としてはこれといって特徴がないのだが、部屋は清潔で何より低料金なのがいい。最近は演出過多なこじゃれた“秘湯の宿”より、商人宿といった趣のある昔ながらの旅館のほうが落ち着ける。


こうした町場の旅館では、夕食は頼まずに外で飲食する(今回は友人と飲むために来たのだから当然だが)ので、1泊朝食付きの料金で泊まることが多い。温泉宿の夕食は食べる気がしないが、朝食は別だ。普段、朝はパンと紅茶とリンゴで済ませているので、たまに日本旅館で提供される朝ご飯をしっかり食べると、その日一日すこぶる調子がいいような気がする。
山田屋の朝食は、まさにそうした“日本の正しい朝食”。これで1泊4000円とは安いと思いませんか。


ところで、私が宿泊した日は、温泉を集中管理するタンクが故障したとかで、共同浴場の「丑の湯」も含め湯本温泉全部の宿への供給がストップしてしまうという、前代未聞の騒動が起こっていた。山田屋の女将さんは温泉に入れないのは申し訳ないと、宿泊料金を500円おまけして3500円にしてくれた。


その後友人からの電話によれば、4日間も温泉が供給されなかったとのこと。温泉町の集中管理システムは、各宿への温泉の安定供給というのが最大のメリットのはずなのだが…。こんなことしていたら、ただでさえ客足が遠のいているように見える湯本温泉、その将来は大丈夫?

金勢(金精)様の話

金勢(金精)様の話の続き。
金勢信仰は古代の陽物崇拝の名残りといえる。村の境を守り悪霊の侵入を防ぐ塞の神、道祖神のひとつであり、災いを取り除く呪力を持ち、豊穣と生命力をもたらす神でもある。湯治場で金勢様を祀るようになったのは、特に安産と子宝の神とされ、婦人病に効力があるとして信仰されたためであった。


子供に恵まれないことは、今でもそうだが昔の農村地帯では特に、嫁いだ本人も嫁ぎ先にとっても、切実なことだった。温泉が不妊症に何らかの効力があることは、経験上から口コミで広まっただろうし、湯治場では「子宝の湯」を売り物に宣伝につとめ、浴客を集めたものであろう。
土砂災害で消滅した八幡平の蒸の湯温泉(オンドル宿舎)や赤川温泉などでは、御利益に預かった湯治客が奉納した金勢様がよく見られたのも、実際に湯治をして子供を授かったという女性が少なくなかったからだ。


北東北では、下の「大沢温泉の金勢まつり」で取り上げた大沢温泉や湯川温泉高繁旅館、鶴の湯温泉、蒸の湯温泉のほかにも、今も金勢(金精)様を祀っている温泉は多い。ただ、中には女性や都会からの観光・行楽客が増えたため体裁が悪いと自主規制?したのだろうか、いつの間にか見られなくなったところもある。


藤七温泉彩雲荘(岩手県松尾村)の別棟の湯小屋には、1メートルはあろうかという立派な金勢様が置かれていたものだが、知らぬ間に撤去させられてしまったようだ。


20年前に訪れた時は、オンドル式の湯治棟がまだ一棟だけ残っていたが、今は人気宿のひとつになり、八幡平の湯治場的な雰囲気はすっかり薄れてしまった。これも時代の趨勢(要請)であろう。


青荷温泉(青森県黒石市)の湯小屋「龍神ノ湯」にも、以前は大きな木造りの金勢様が浴槽にプカプカ浮いていた。しばらく行っていないが、今はどうであろうか。

大沢温泉の金勢まつり

4月29日は、岩手県の奥花巻(花巻南温泉峡)にある大沢温泉で、名物の「金勢まつり」が行われる日だ。


大沢温泉の金勢神社は同じ岩手県玉山村にある巻堀神社の金勢大明神を分神したもので、ご神体は重さ150キロ、長さ1.4メートルもあるケヤキの一本造りの陽物。大きな袋(木塊)が付随しているのがまたリアル。
この金勢様は、以前は一年を通して大沢温泉から離れた大久保山の神社に安置され、祭りの日だけ温泉まで下山していたのだが、2年前に湯治客が参拝しやすいように温泉の敷地内にお堂が建てられ、冬期間だけここに納められるようになった。


この祭りのクライマックスは、大沢温泉名物の露天風呂に金勢様を入れて洗い清めるという「入浴の儀」。露天風呂にザンブと入って湯浴みする金勢様に、さらしに半纏姿の女性がお供する。
私が初めてこの祭りを見た15年ほど前は、大沢婦人部のおばさんたちがこの役目をしていたように思うのだが、昨年久しぶりに祭りを見たら、妙齢の女性数人が参加していた。聞けば良縁・子宝祈願のため、わざわざ県外からやって来たのだという。


巨大な金勢様にまたがって、どんぶらこっこと露天風呂をひとめぐりする様子は、ユーモラスではあるが、年若き女性ということもあってちょっとヒワイかな??


でも、この金勢様にまたがったおかげで、実際に子宝を授かったというおかあさんが入浴の儀に参加していて(写真左の袋を持っている人)、その子供(女の子)が誇らしげに紹介されていた。確かに霊験あらたかなのであろう…。


北東北の湯治場では、大沢温泉のほかにも金勢(金精)様を祀っているところは少なくない。岩手県湯田町の湯川温泉高繁旅館の金勢様は2メートルはあろうかという自然石。女性に人気のある秋田県田沢湖町の鶴の湯温泉にも、女性用露天風呂の片隅のお堂にこっそりと祀られているし、蒸の湯温泉(秋田県鹿角市)の館内にある金精神社には、今も大小の木製リンガが奉納されている。
土砂崩れでオンドル宿舎が倒壊する前の蒸の湯温泉では、子宝を願い安産を祈る女性たちによって金精祭りが盛大に行われ、熊の湯などの共同浴場には金精様がいつも何本か浮いていたものだった。

「斎藤の湯」と滝桜

福島県三春町の「斎藤の湯」は、阿武隈の山間に湧く。
「上ノ湯」と「下ノ湯」の2軒の宿があり、どちらも湯治場の風情が色濃く残る。
私は「上ノ湯」に泊まったが、どちらかというと「下ノ湯」のほうが湯治客に人気が高いようだ。朝早くから浴室は大勢の浴客で一杯で、館内も湯治場特有のほんわかした雰囲気がある。
泉質はラジウムを多量に含む冷鉱泉で、鉄、炭酸などの含有量も多い。沸かし湯ながら個性の強い湯なので、「長湯はしないでください」との注意書きが浴室前に貼ってあった。


すぐ近くに有名な「滝桜」がある。私は一昨年の4月上旬に訪れたのだが、この年は例年より開花が10日も早く、思いがけず満開の桜を見ることができた。
三春町には滝桜だけでなく、町内のいたるところで立派なシダレザクラが見られた。三春だけでなく会津地方もそうだが、4月の福島県を旅すると、有名無名の桜にいたるところで出会える。
湯治場に桜はよく似合う。