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髪結いの亭主 物書きの妻

金勢(金精)様の話

金勢(金精)様の話の続き。
金勢信仰は古代の陽物崇拝の名残りといえる。村の境を守り悪霊の侵入を防ぐ塞の神、道祖神のひとつであり、災いを取り除く呪力を持ち、豊穣と生命力をもたらす神でもある。湯治場で金勢様を祀るようになったのは、特に安産と子宝の神とされ、婦人病に効力があるとして信仰されたためであった。


子供に恵まれないことは、今でもそうだが昔の農村地帯では特に、嫁いだ本人も嫁ぎ先にとっても、切実なことだった。温泉が不妊症に何らかの効力があることは、経験上から口コミで広まっただろうし、湯治場では「子宝の湯」を売り物に宣伝につとめ、浴客を集めたものであろう。
土砂災害で消滅した八幡平の蒸の湯温泉(オンドル宿舎)や赤川温泉などでは、御利益に預かった湯治客が奉納した金勢様がよく見られたのも、実際に湯治をして子供を授かったという女性が少なくなかったからだ。


北東北では、下の「大沢温泉の金勢まつり」で取り上げた大沢温泉や湯川温泉高繁旅館、鶴の湯温泉、蒸の湯温泉のほかにも、今も金勢(金精)様を祀っている温泉は多い。ただ、中には女性や都会からの観光・行楽客が増えたため体裁が悪いと自主規制?したのだろうか、いつの間にか見られなくなったところもある。


藤七温泉彩雲荘(岩手県松尾村)の別棟の湯小屋には、1メートルはあろうかという立派な金勢様が置かれていたものだが、知らぬ間に撤去させられてしまったようだ。


20年前に訪れた時は、オンドル式の湯治棟がまだ一棟だけ残っていたが、今は人気宿のひとつになり、八幡平の湯治場的な雰囲気はすっかり薄れてしまった。これも時代の趨勢(要請)であろう。


青荷温泉(青森県黒石市)の湯小屋「龍神ノ湯」にも、以前は大きな木造りの金勢様が浴槽にプカプカ浮いていた。しばらく行っていないが、今はどうであろうか。