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髪結いの亭主 物書きの妻

東北の古層でアースベイビーが叫ぶ

先日、秋田県立美術館で開催されている「東北を開く神話 第1章 鴻池朋子と40組の作家が謎の呪文で秋田の古層を発掘する」を観てきた。



秋田の「地名」「民話」「伝説」「方言」などをランダムに組み合わせてできた、意味不明の「呪文」のようなことばをもとに、40組の作家が制作した作品が秋田の地図にみたてた展示ホールの床面に展示されている。

たとえば男鹿半島の場所では、-毛無山の/ほいどたかれの/ハタハタが/「誰きても家さ入れではならね」っていわれで/ばっちゃを捨てにいぐごどにした- という文から作家がインスパイアされて具現化した作品がインスタレーションされているという具合。


「ほいどたがれのハタハタ」ってどんなハタハタだ? って突っ込みたくなるが、不思議なことに、こうした呪文めいたことばから秋田の土着文化、神話的世界が立ち上がってきて、想像力をかきたてられる。
そしてまた、それぞれの作品に作家名が記されていないことが、美術館での美術鑑賞という既成の枠組みから鑑賞者を自由にしてくれる。「呪文」のモチーフとなっているフォークロアは、個としてのアーティストなどではなく、「ほいど」も含めた無名の民によって今に伝承されてきたのだ。


会場の一番奥に鎮座ましまして、圧倒的な存在感で迫っているのが、この展覧会のディレクターである秋田市出身のアーティスト、鴻池朋子さんの作品「アースベイビー」。ここから延びる無数の縄は、古層深くに眠る土地の記憶を母体とする臍の緒のようでもあり、原初の宇宙で生まれたエイリアンの触手のようでもある。



earth baby


作者の鴻池さんは「作家たちの作品は、地球の古層の入口で叫ぶ巨大な赤ん坊アースベイビーと縄によって結ばれ、また、縄文に起源を発する縄は、東北の蝦夷や神話の時代へとつながっている」と述べている。
40人の作家がそのことばに応えられているかどうかは疑問も残るが、会場をぐるぐる回っているだけで楽しくなるので、そんな小難しいことは抜きにしよう。


地名の持つ喚起力の凄さ、アートとフォークロアの結合という独創性、そこから生まれる新たな視点、神話的想像力をかきたてる秋田の文化の奥深さ、そんなことを感じた、刺激的で面白い展覧会であった。
まだ観ていない方は、見せ物小屋にでも行くつもりで足を運んでみることをオススメする。※作品の撮影とWeb上の公開は許可を得ています