Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

渋谷の“AKIRA”

2年前の冬、渋谷で開催されていたイルミネーションイベント「青の洞窟 SHIBUYA」を見るため、渋谷駅から代々木公園方面へ公園通りの坂を登って行く途中、突然、眼前にまがまがしくも懐かしい「絵」が現れて一瞬たじろいだ。
それは渋谷パルコ建て替え工事現場の仮囲いの壁に描かれた「AKIRA(アキラ)」の「ART WALL(アートウォール)」だった。


きらびやかなイルミネーションに彩られた師走の渋谷の公園通り。そこにふいに出現した「AKIRA」のネオ東京(大東京帝国)の「破壊」シーン。しばし立ち止まり、ウォール(壁)に沿って流れる人を見ていた。


知っての通り「AKIRA」は日本だけでなく世界中に熱狂的なファンを持つ漫画+アニメーションだ。漫画の連載が開始されたのは1982年で、1988年に公開されたアニメーション映画が世界中で愛され、作者の大友克洋は偉大なクリエイターとしてリスペクトされている。私にとっても70年代中ごろに「ハイウェイスター」という(まるでアメリカンニューシネマを見ているような、それまでのマンガで見たことがないような映画的)作品に出合ってから、「FIRE BOLL」そして(最高傑作の)「童夢」、映画「AKIRA」に至るスリリングな軌跡を追った、敬愛してやまない漫画家のひとりである。


「AKIRA」の物語の舞台は2019年で、1年後の2020年に東京オリンピックを控えているという設定だ。偶然にも2020年の東京オリンピックを「予言」していたということで、ファンの間では大きな話題となってきた。
それが今年になっての新型コロナウィルスのパンデミックで、東京オリンピックが延期になった。(「AKIRA」には、オリンピック建設地に「中止だ、中止」の落書きが出てくるシーンがあるのも予見的?)


渋谷パルコは2年にわたる工事期間を経て昨年11月にリニューアルオープンしたが、わずか4か月でこのたびのコロナ禍で休業を余儀なくされた。そして映画「AKIRA」で冒頭のバイクチェイスシーンに流れる芸能山城組の「ラッセラー!」の響き。その掛け声が夏の夜にこだまする今年の青森ねぶた祭りも、早々に中止となってしまった。
https://www.youtube.com/watch?v=HB6Ch_VAfIk


新たに街のパブリックイメージとなる建物を建設する工事現場に描かれた東京の「混沌」と「破壊」。今になって思い返すと、そのインパクトになんだか不吉な胸騒ぎを覚えたのは、「AKIRA」の画力の強さだけではなかったような気がしてくる。