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髪結いの亭主 物書きの妻

湯段温泉 長兵衛旅館

津軽の湯段温泉(岩木町)といっても、知らない人が多いかもしれない。津軽で歴史の古い温泉場といえば、浅虫温泉(青森市)、温湯温泉(黒石市)、嶽温泉(岩木町)、大鰐温泉(大鰐町)などがあげられるが、湯段温泉もこれらの有名温泉にひけをとらない由緒ある古湯だ。江戸時代の享保年間(1716-1735)に柴田勝家の家来、柴田長兵衛によって開かれたといわれ、その子孫が代々経営してきた湯治宿「長兵衛旅館」が今もある。


江戸時代に東北・北海道を遊歴した菅江真澄という三河(愛知県)生まれの旅人は、津軽滞在中に温泉場をめぐり歩き、湯段温泉にも訪れている。旅日記にはその時の様子が次のように記されている。
「湯谷(もっぱら湯段といっているが、谷をたんと言い違っているのであろう)の温泉の部落の長(おさ)、長兵衛という人のところに宿を求めた。ねち(温)、ひえ(冷)という湯げたのふたつあるのに湯をあび、床についた夜半になって、山風がさっと吹きおろして冴えて寒くなり、時雨がふってきた」(『雪のもろ滝』)


湯段温泉には長兵衛旅館を含めて4軒の宿があるが、他の3軒は長兵衛の別家という。温泉集落の景観やたたずまいは、200年以上前に真澄が訪れた時とほとんど変わらず鄙の味わいがそのまま残る、時代から取り残されてしまったかのような湯治場だ。でも、偏屈人間の私は、何の飾り気も演出臭さもないこんな温泉に惹かれ、肩入れしたくなる。


露天風呂も名物料理も民芸風なこじゃれ感とも無縁な素っ気なさ、“何もなさ”。ただし、お湯は一級品。金気を含んで少し赤味を帯びた湯(含塩化土類食塩泉)はよく暖まる。私は近くの嶽温泉の硫黄泉よりこちらのほうが好みだ。


そのうちのひとつに長兵衛の宿を守る柴田ムツエさん(おばあちゃん)が、「長兵衛旅館もすっかりとさびれてしまって…」と言っていたと書かれてあった。確かに湯治客がめっきり減り、昭和40年代ころまでのような賑わいはもうみられない。でも、こんな湯治場、湯治宿は今の時代、かえって貴重。もし、「東北の湯治場 湯めぐりツアー」で津軽を訪れることがあったら、ムツエおばあちゃんを力づける意味でも、ぜひ「長兵衛旅館」に立ち寄っていただきたいものである。



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