Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

モロ・ノ・ブラジル

私が十数年前にやっていた飲み屋Mでは、ブラジル音楽をよくかけていた。お客さんに日系三世のNさんや、ブラジル音楽フリークの人がいて、テープやレコードをよく持ってきてくれたからだ。ただ、店をやめてからは、ほとんど聴かなくなっていた。ところが、3カ月前にフィンランド人の映画監督、ミカ・カウリスマキの「モロ・ノ・ブラジル」を見て以来、再びブラジル音楽が私のまわりで鳴りだした。


「モロ・ノ・ブラジル(MORO NO BRASIL)」とは、「私はブラジルに住んでいる」という意味で、ブラジル音楽のとりこになったミカ・カウリスマキが、文字通りブラジルに住んで(長期滞在して)撮りあげたドキュメンタリー映画。ブラジル北部ベルナブンコ州のインディオの音楽から始まって、黒人色の強いバイーア州のリズムを経て、リオデジャネイロのエスコーラ・ジ・サンバ、マンゲイラまで、いわばブラジル音楽の流れを辿るロード・ムーヴィーだ。


私が名前を知っているような有名ミュージシャンはほとんど出てこない(大好きな歌手カルトーラの未亡人、ドナ・ジッカがちらりと登場するのはうれしかったが)。知っている曲はクララ・ヌネスが歌っている名曲「ジュイーソ・フィナウ」のみ。ブラジリアン・ファンク、サンバ・ソウル、なんていうストリート・ミュージックをはじめ、多種多様で強烈な個性を持った無名ミュージシャンが次から次へと登場する。マニアック、というか、深くこい~~い。同じような音楽ドキュメント「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」と比べいまいち盛り上がらず、あまり話題にならなかったのは、きっとその濃さのせいだろう(歌手の人生を感傷的に取り上げることもないしね)。
私も見ている間は、ちょっとマニアックすぎるんじゃあ?と引きぎみだった。だが、見終わったあとになぜか無性にサンバが聴きたくなり、3カ月近く経った今、車の中で大音響で愛聴しているのはブラジル音楽ばかり。アイルランド音楽もいいが、ブラジル音楽もやっぱりすばらしい!


「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」は確かによくできた映画だったが、そこで奏でられていたのは過去の音楽だった。だが、「モロ・ノ・ブラジル」は過去から現在に至る進行形の音楽を扱っている。貧困にあえぐストリートから発生する生身の音楽に焦点を当てている。そこが凄い。
ミカの弟のアキ・カウリスマキが小津安二郎に傾倒しているのはよく知られているけれど、なんでも70年代半ばのロンドンで、ミカ(兄)に連れられて「東京物語」を見に行ったのが、アキ(弟)と小津映画との初めての出会いだったとか。


この兄弟、同じ小津信奉者の白人でも、「ブエナ・ビスタ~」のW・ヴェンダースよりは、あざとさが感じられず、ずっと好感がもてる。(またヴェンダース批判をしてしまったようで…)