Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

Saltans of Swing(悲しきサルタン)

今月初めにNHKBSで放映していた「みんなロックで大人になった」の再放送を見ている。イギリスBBCが独自のアーカイブを大量に使い、1960年代から現代に至るまで、“ロック”が時代の流れの中でどう変化し、社会に影響を与えていったかを「アート・ロック」「パンク・ロック」「ヘビィ・メタル」などジャンルごとに描く7回シリーズで、第5回目のきょうは「スタジアム・ロック」というテーマだった。


ロックに限らずジャンルというのは後付けのものが多いし、定義もあいまい。それにこの番組、BBC制作だけあって、ロックのジャンル分けというか括りかたがかなり個性的(独善的)で、取り上げるミュージシャンも偏っている。まあ、そこが面白いといえば面白いんだけど。


「スタジアム・ロック」というのも、あまり耳慣れないことばだな、と思ったら、野球場やフットボール場などのスタジアム、大規模な会場でライブをする(社会的にも商業的にも)成功を収めたバンド、ミュージシャンのことだった。ちょっと意外だったのは、クィーン、レッドツェッペリン、ブルース・スプリングスティーン、ポリス、U2など70~80年代ロックの大御所たちに混じってダイアー・ストレイツ(Dire Straits) が紹介されたこと。このバンドをスタジアム・ロックとして括るには地味すぎやしないか?


ダイアー・ストレイツにはちょっとした思い入れがある。1970年代の中ごろは、あちこち引っ越し歩く行方定まらぬ生活をしていたので(当然、プレーヤーも持っていなかった)、新譜レコードを買うという行為にしばらく無縁だった。旅暮らしから戻ってきて仕事を見つけ、アパートを借りて暮しはじめたのが、1979年の冬。そのころ発売されたこのバンドのデビュー・アルバム「ダイアー・ストレイツ」が、ラジオでかかっていたのを偶然聞いた。シンプルなギターサウンドと、J・Jケイル風味というか、ボーカルの唄い方がボブ・ディランそっくりなのが気に入ったのだと思う。最初の給料でひさしぶりに買ったレコードが、このアルバムだった。


アルバムにはダイアー・ストレイツを有名にしたヒット曲「Saltans of Swing(悲しきサルタン)」が入っていた。マーク・ノップラーの当時では珍しいフィンガー・ピッキング奏法とディランにクリソツな声が(どう見てもダイアー・ストレイツ=マーク・ノップラーだね)個性的でかっこよくて、30年前の曲だが、今聴いても色褪せていない。



Dire Straits - Sultans Of Swing


それにしも、ロックというのは、幼児性丸出しの音楽という気がする。その剥き出しさ加減がヒリヒリするほど痛々しくなった時がそのジャンル(バンド)の絶頂期であり、終焉でもある。
この番組を見た感想を記したあるブログに、“「みんなロックで大人になった」って釈然としないタイトルですけどね。どうせなら「みんなロックで子供のまま」とかねw”と書いてあったのだけど、確かに…。