Toshibon's Blog Returns

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テイラー・スィフトの「folklore(フォークロア)」

今さらかと思われるかもしれないが、テイラー・スィフト(Taylor Swift)の「folklore(フォークロア)」は傑作だ。今年後半、車のなかで一番聴いたのはこのアルバムかもしれない。
何といってもアルバムタイトルがいい。1980年代の初めに「New Folklore Express」という名のフリーペーパーを発行し(3号で終わったが)、一時この名義で事務所を設けた(架空の!!)ことのあるtoshibonには、このタイトルだけで涙腺崩壊(笑)。
ジャケットもいい。そして何より楽曲(全16曲)がいい。なかでも好きなのは、トラディショナルというか、どこか郷愁をそそる旋律の「seven」という曲。全曲分のリリックビデオがオフィシャルでYouTubeに公開されていて(ミックスリストで全曲視聴可能)、その固定カメラによる映像もいい。

Taylor Swift – seven (Official Lyric Video)


今年の夏、発売されてすぐにHot 100 の1位を獲得した「Cardigan(カーディガン)」をとりあえずYouTubeで聴いてみたら、なんかとても懐かしい感じがしたのだけど、プロデューサーに迎えたのがザ・ナショナル(The National)のギタリストでコンポーザーのアーロン・デスナー(Aaron Dessner)だというので、合点がいった。昨年の今ごろよく聞いていたのが、「I Am Easy to Find」という彼らのアルバムで、ピアノの旋律や曲全体の雰囲気、コンセプトが「folklore」似ていたからだ。新型コロナウィルスのパンデミックの中、楽曲制作は2人によるリモートワークによって行われたという。


「Cardigan」

Taylor Swift - cardigan (Official Lyric Video)


「Light Years」(The National)

The National - 'Light Years'


テイラー・スィフトはポップクイーンとして頂点を極めた人だけど、もともとはカントリー・ミュージック畑から出てきた人で、本人は高校生のころカントリーをやっていてダサいと同級生にバカにされたと言っている。実際、ちょっとイモっぽいところがあるような…(私なんかはそこが魅力?なんだけど)。
CMAアワード(カントリーミュージック協会賞)の最高賞を受賞した時の演奏だろうか、toshibon御贔屓のアリソン・クラウス(Alison Krauss)姉御やヴィンス・ギル(Vince Gill)などカントリー界の大御所を従えて、カントリー・ロックとでもいうべき「Red」を歌っているリハーサル映像本番と遜色ない出来!)なんか鳥肌ものだ。


彼女は「隔離生活を送っている間、私の想像力はどんどん膨らんでいった。意識の流れに身を任せることで、このアルバムの楽曲と物語が自然と生まれてきた」と綴っているが、
コロナ禍のなかでの閉塞感を歌ったものではない。パーソナルだが陰でも、閉じこもってもいない。細やかな音色だが言葉は力強い。やすらぎと同時に勇気づけられるというか、前を向かせる音楽だと思う。ふと(ジョニ・ミッチェルを聴いていた時のような)70年代の女性のシンガーソングライターたちに通ずる懐かしい感覚が呼び起こされたのだけど、もっと感情の揺れはエモーショナルで、痛みはもっと近しい。
トータルアルバムとして見て、ひとつひとつの曲をつないでいけば、きっと「物語」があるのだろう。そこに「folklore」というタイトルをつけた意味があるのだろうが、私の読解力ではそこまでたどり着けない。それにしても、テイラー・スィフトでジョニ・ミッチェルを聴いているような心持になろうとは……。