Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

東京日記 観音崎の横須賀美術館

神奈川県横須賀市の横須賀美術館に行って来た。この美術館は横須賀市の市制100周年を記念し、昨年春に開館したばかり。観音崎公園内(観音崎灯台の西側)という鉄道の駅からかなり離れた辺鄙な場所にあり、JR横須賀駅からは湘南京急バスで30分くらいかかるので、立地条件はあまりよくない。
だが、この美術館ができたことを知った時、是非とも行ってみたいと私に思わせた1番の理由は、観音崎というそのロケーションにある。


20代の初めころ、鎌倉に住んだことがあって、そこでアルバイトをしていた喫茶店の親睦と慰安をかねた日帰り遠足(リクリエーション)の行き先が同じ三浦半島の観音崎だった。その時に東京湾を航行する船の多様さも含めた数の多さと、暖地生の植物が繁茂する岬の風光に強い印象を受けた。いつだったかある高名な学者が、隠居したら観音崎の近くにアパートを借り、東京湾を行き交う船を1日中眺めていたい、と新聞のコラムに書いていたのを読んで、私も歳をとったら是非そうしたいものだと共感を覚えたのも、初めて観音崎を訪れた時の記憶が強く残っていたからだろう。観音崎は東京湾の中でも水路が狭まった浦賀水道に面している。岬をかすめるように航行する貨物船、タンカー、フェリー、セーリングのヨット、漁船…、日がな一日それらを眺めて過ごせたなら、どんなに幸せなことだろうか、と今でも思う。


ところで、横須賀美術館ではいま「ライオネル・ファイニンガー展―光の結晶―」という企画展が開催されている。実のところライオネル(リオネル)・ファイニンガー(1871~1956)は初めて聞く名前で、私は全く知らない画家だった。チラシには、ニューヨーク生まれのドイツ人で表現主義とキュビズムの影響を受けた画家とあったので、私のあまり好みじゃない抽象画だろう、なんて勝手に決めつけて、企画展自体にはあまり期待しないで出かけたのだが…、いやいや、予想に反してその絵は独自性のある素晴らしいものだった。


1930年前後に描かれた風景画、なかでもバルト海を題材にした絵がよかった(海の絵を海の傍にある美術館で見るのは、いいものだ)。キュビズム風風景画?といったらよいのだろうか。具象ではない、かといって抽象でもない。その中間の不思議な光の空間。日本で本格的に紹介されるのは今回が初めてらしいが、世界にはまだまだ(日本では)知られていないすぐれた画家がいるものだ。


「ライオネル・ファイニンガー展」


横須賀美術館。外観は塩害を防ぐためにガラスで覆われている部分が多い(設計者は山本理顕氏)。


レストランとテラス。眼前に芝生広場をはさんで東京湾が広がる。


館内の壁や天井には丸穴が開けられ、海からの自然光が入るようになっている。


屋上は東京湾をみはるかす海の展望台になっていて、ここから背後に広がる観音崎公園の樹林の中へも行くことができる。



観音崎の遊歩道を歩いていたら、岬の突端に釣り人がいた。あまりに風景にぴったり溶け込んでいたので、思わずパチリ。


美術館のすぐそばには東京湾が一望できる「観音崎京急ホテル」がある。館内のレストランでお茶を飲みながらしばし行き交う船を眺めていたら、「ソーダ水の中を貨物船が通る」(荒井由実『海を見ていた午後』)のフレーズが突然口をついて出た。こんなところで30年前の曲をくちずさんでいる自分に自分でビックリしたが、同時にこのころのユーミンって、やっぱり天才だったんだな、とも思った。



×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。