Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

気まぐれに1冊⑨ 『銭湯の女神』

東京都文京区では、「シニア入浴事業」という区民サービスを実施している。65歳以上の区民が、区発行の「シニア入浴カード」を区内4か所の公衆浴場(銭湯)に持参すると、1回100円(通常480円)で、年52回(月4回程度)利用できるというもので、文京区民である妻は、今年に入ってこの入浴カードを利用して銭湯めぐりをするようになった。コロナのせいで仕事が減ったのと、身内の世話から解放され時間に余裕ができたことも関係しているが、妻はもともとお風呂好き、温泉好きで、最近はとんとご無沙汰しているが、かつては一緒に東北の湯治場めぐりの旅をしたものだ。


「東京銭湯マップ」文京区


銭湯好きの女性といえば、思い出すのが『入浴の女王』(1995年/講談社)の杉浦日向子(1958~2005)と『銭湯の女神』(2001年/文芸春秋)の星野博美(1966~)。
この2冊を読んだ当時、あるところに―『銭湯の女神』は、作者が香港帰りで東京でファミレス通いしながら書き上げたところが、まさに女版・山口文憲(『空腹の王子』+『燃えないゴミの日』)といった感じ。観察がこまやかで文明批評的なその眼差しには共感できるところがあって、なかなか読ませる。ただ、ちょっと自己中心的な面もあるかな。杉浦日向子のほうは全国の銭湯めぐり&酒飲み遊覧記なのでお気楽に読めるけど、星野博美のほうは読後感がちと重い。もっと、お湯にゆらゆら身をゆだねて肩の力を抜いてもいいのでは―
と、“あんた何様”的な書評らしきものを書いた。


あれから20年。星野博美はノンフィクション作家として実績を積み重ね評価も高く、新刊が出ると読んでみたくなる気になる存在となった。ただ、内澤旬子もそうだけど、フリーランスで生きてきた女性のノンフィクションライターは一冊の本をものするのに、身を削って自分をさらけ出す感があって、そのヒリヒリ感にたじろぐ時がある。筆力と相まってそこがウリだといってしまえばそれまでだが。ホームタウンである戸越銀座の日々を綴った『戸越銀座でつかまえて』(2013年/朝日新聞出版)なんかも、同じくよるべなきフリーランスの身(=toshibon)として共感を抱きつつき、『銭湯の女神』と似たようなモヤッとした読後感があって、それがこの人の持ち味であり、ちょっと苦手なところでもあるのかな、と思ったりする。