Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

私の好きな野球映画

大リーグ、シアトル・マリナーズのイチローが258本の安打を打ち、ジョージ・シスラーの持つ年間最多安打記録を84年ぶりに更新した時、球場に流れていた曲が、映画「ナチュラル」のテーマソングだったということを後になって知った。


「ナチュラル」(監督:バリー・レビンソン、1984)は、まさにシスラーやベーブルースが活躍した1920年代〜30年代の古きよきアメリカが舞台。高校時代に野球選手であったというロバート・レッドフォードが、雷の落ちた木で作ったバット(ワンダー・ボーイという名前が付いている)を手に、35歳でメジャーリーガーになった主人公を演ずるノスタルジックな野球映画だ。


スタジアムを包み込む観客のスタンディングオベーションの中、ベンチにいたチームメートが1塁ベース上のイチローまでかけよって祝福し、さらにスタンドで観戦していたシスラーの娘さん家族にイチローが歩み寄り、ことばを交わすシーンに私は胸が熱くなったのだが、そこにワンダー・ボーイ=ナチュラルが流れるとは、心憎い演出ではないか。


数あるスポーツの中で、最も多く映画になっているのは野球ではないだろうか。野球というのは、かなり変わっているスポーツで、プレイとプレイの間にやたら「間(ま)」があるので(その意味で野球に一番似ているスポーツは相撲かもしれない)、心理描写がしやすく映画向きともいえる。何よりアメリカ人は野球が好きだから、というのが映画化される一番の理由でもあるだろう。


以下は私が好きな野球映画。


●がんばれ!ベアーズ(監督:マイケル・リッチー、1976)
野球が主役の映画で一番好きなのがこれ。この映画のベースボールを相撲に置き換え、換骨奪胎したのが周防正行の「シコふんじゃった」(1991)。やっぱり野球と相撲は似ている? テイタム・オニールがめちゃ可愛い。今彼女はどうしているのだろう。


●さよならゲーム(監督:ロン・シェルトン、1988)
野球が好きな俳優といえばこの人、ケビン・コスナー。「さよならゲーム」、「フィールド・オブ・ドリームス」(監督:フィル・アルデン・ロビンソン、1989)、「ラブ・オブ・ザ・ゲーム」(監督:サム・ライミ、1999)を、俗にケビン・コスナー野球3部作というらしいが、3作品の中では「さよならゲーム」に一番惹かれる。
引退を勧告されるマイナーのベテラン捕手という役どころで、オツムが弱くノーコンだが豪速球を投げる若いピッチャーにティム・ロビンス、2人と関係を持つ熱狂的野球ファンの女性にスーザン・サランドン。このアンサンブルが絶妙。ケビン・コスナーがDH制やスーザン・ソンタグ批判をまくしたて、野球選手には珍しいインテリぶりにS・サランドンが惚れてしまう場面がおかしい。小品だが、マイナー選手の悲哀がよく描かれている。


●プリティ・リーグ(監督:ペニー・マーシャル、1993)
第二次世界大戦下の1943年、メジャーリーガーたちが戦場へかりだされてしまったため、女性だけのリーグが発足するという話。これが実話だというから、アメリカ人の野球愛の深さがわかろうというもの。ジーナ・デイビス、ロリー・ペティ、マドンナなどの女優陣がちゃんと野球選手としてサマになっていて、本気で野球に取り組んでいるのがわかる。日本でこんな映画を作ろうとしても女優がいないだろうなあ。


●ナチュラル
原作はピュリツァー賞受賞作家のバーナード・マラッド。冒頭、野球修業にでかける主人公がいきなり凶弾に倒れるのだが、撃った女の動機の説明はない。ジョン・アービング原作の傑作「ガープの世界」(監督:ジョージ・ロイ・ヒル、1982)でも、物語の後半で主人公が幼いころからつけ狙われている女に撃たれるのだが、その理由などは全く描かれていない。「ナチュラル」も「ガープの世界」も主人公の男はイノセントそのもの、無垢を体現している。純粋無垢な男を理由もなく破滅に追い込む女…。思うに一部のアメリカ文学には、女性恐怖というテーマが底流に潜んでいるのではないだろうか。


(ここまで別ブログ「Toshibonの映画備忘録」2004年より転載。下記は通常記事)
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ところで、上記にあげた映画に「フィールド・オブ・ドリームス」が入っていないのを、不思議に思う人がいるかもしれない。小説の映画化によるファンタジー度が強すぎて、「The Catcher in the Rye(ライ麦畑でつかまえて)」が「Catch Ball in the Corn Field (とうもろこし畑でキャッチボール)」になったみたいで、私には純粋な野球映画として楽しめなかった。
ただ、今年(2021年)の夏、先月8月13日(日本時間)、アイオワ州にある「フィールド・オブ・ドリームス」のロケ地に隣接して特別に設営された球場で、ヤンキース対ホワイトソックスの一戦が行われたことは、アメリカでの野球人気が衰えてきたとはいえ、さすが伝統のMLB、やっぱり捨てたもんじゃないと思った。
私はたまたまTVのスポーツニュースで見たのだけど、ホワイトソックスとヤンキース、両チームの選手が映画と同じくトウモロコシ畑から出てきて試合が始まり、逆転に次ぐ逆転で最後は9回裏にサヨナラ2ランが飛び出して、9-8でホワイトソックスの勝利。まるで“映画のような”劇的な試合展開だった!
試合前にはケビン・コスナーが登場してスピーチしたそうだが、ここに載っている写真を見ると随分老けたなあと…。映画が公開されてから30年以上経っているから、それも当然なんだけど。