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髪結いの亭主 物書きの妻

温泉と民謡

東北地方、中でも北東北(青森県、岩手県、秋田県)は民謡の宝庫なので、湯治場のお風呂場でじいさん、ばあさんが手拍子をとりながら地元の民謡を歌っていたりすることがある。温泉と民謡という私の2大好物を同時に体験できるのだから、こんなに楽しいことはない。


北東北3県は他県の人が考える以上に歴史風土も県民性も異なっており、民謡にそれがわかりやすい形で現れているので、聴き比べてみるのも面白い。
たとえば津軽民謡。他人が節を1回ゆするなら自分は2回ゆする。3回なら4回。他人以上でやることで自分の存在をアピールする。津軽人の積極的な気質と“じょっぱり精神”そのままの技巧を凝らした唄と三味線。
それに反して南部民謡は、厳しい自然条件の中で培われた我慢強い南部人の実直さを感じさせる。押しの強さや見た目の技巧とは無縁な、土臭く飾り気がないひたむきな唄。
秋田民謡は派手で陽気で華やか。だが、単に明るいだけではなく、その中に内気さというか、ある種のはにかみのようなものを感じるのは、秋田県人である私の贔屓目というものか。


3県とも民謡が盛んなことでは負けていないが、津軽では技巧に走りすぎた結果なのか、民謡はプロの民謡歌手が歌うものといった風潮があって、生活に根ざした仕事唄などがどんどん廃れていく傾向にあるというのが残念だ。民謡の隆盛が、かえって一般の人が気安く民謡を口づさむ機会を失わせているというのは皮肉だが、温湯温泉(黒石市)などで行われる7月の丑湯まつりの民謡ショーの華やかさは、さすが津軽の温泉場ならではと思わせる。


3県の温泉をめぐり歩いて、お風呂場で地元の民謡を聴く機会が一番多かったのが、岩手の湯治場だった。国見温泉(雫石町)、夏油温泉(北上市)、湯川温泉(湯田町)などで聴いた「南部牛追い唄」「外山節」「南部木挽唄」などの地味だが心に染み入るような南部民謡は忘れられない。また、奥花巻(花巻南温泉峡)の大沢温泉自炊部、鉛温泉藤三旅館、志戸平温泉旅館などの湯治宿では、年数回、湯治客の自主的な運営による演芸大会を催しているのもユニークだ。


10年ほど前、毎年6月に行われている「早苗振り演芸大会」を見るために、鉛温泉自炊部に泊まったことがあった。運よく隣が尺八伴奏の人の部屋で、お邪魔して話を聞いていると、大会に参加する唄い手のおばさんたちがやってきて、鉛温泉名物の混浴のお風呂場(白猿の湯)で歌おうということになった。


身体が温たまると声がよく出るようになり、湯気の湿り具合がのどをなめらかにするというおばさんたちは、円形の浴槽のふちに腰をかけ、尺八を伴奏に次々に得意の唄を披露する(右上の画像をクリック)。天井の高い鉛温泉のお風呂場は音響効果抜群。感動のあまり長湯でのぼせてしまったものだ。