Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

東京日記 「紫陽花日記②」 マネ展

塒のある中央区勝どきから順天堂大学病院のある御茶の水までは、バスと地下鉄を乗り継いで行く。東京駅までバスで行き、地下鉄丸ノ内線に乗り換えるのだが、東京駅のちょっと手前でバスを降り、丸の内のオフィス街を南北に貫く「仲通り」を歩いてみる。
妻の仕事場がこの近くにあり、結婚した年の年末、この通りをメイン会場として初めて開催された「東京ミレナリオ」を一緒に見た。以来、毎年クリスマスのころは、供に電飾のイルミネーションを見歩くのが楽しみになった。


ここ10年ほどで、東京駅西側を中心とした丸の内界隈は再開発が進み、大きく変わった。新しいビルが次々と建ち、ますます賑わい洗練された外観を呈している。ここを歩いていると、今私が住んでいるのが、政治の混迷や景気低迷で大変な状況に置かれている国だということを、すっかり忘れてしまう。


この界隈で今、いちばんの話題といえば、今年春に開館した「三菱一号館美術館」だろう。1894年(明治27年)竣工の三菱一号館を、当時の外観と内装そのままに復元し内部を美術館としたもので、開館記念展として「マネとモダン・パリ」展が開催されていたので、迷わず観覧した。
 
※「マネとモダン・パリ」展 http://mimt.jp/manet/index.html


マネは印象派としてくくれないせいもあって、モネやセザンヌなんかと比べて、いまひとつ捉え難いところがある。映画好きの私にとっては、有名な「草上の昼食」がジャン・ルノワール(ルノワールの息子)が撮った『草の上の昼食』(1959)に少なからず関連していることや、ジャン=リュック・ゴダールの『映画史』での「映画はマネと共に始まる」のことばがひっかかってはいたが、画業やその生涯については、よくわからないというのが正直なところ。だから、ひとりの画家に焦点を当てるこうしはた展覧会は、私には眼福プラス新たな発見の場でもある。


平日だというのに、館内はかなりの混雑。もともとオフィスビルとして建てられたため、内部は小部屋に分かれ、絵を見るには狭苦しく感じられる。が、そうした不満は絵を目の前にするとしばし忘れる(とは言っても、絵をまともに鑑賞するためには土・日をはずしたほうが無難だ)。


「草上の昼食」のほか、マネの絵でもっとも知られているといっていい「オリンピア」「笛を吹く少年」などが出品されていないのは残念だったが、今回の展覧会のポスターに使用されている「すみれの花束をつけたベルト・モリゾ」がやはり素晴らしかった。モデルのベルト・モリゾを描いた他の肖像画にも共通している圧倒的な「黒」に惹きつけられた。
それにしても、油彩、素描、版画が約80点。よく集めたものだ。オープン記念ということで、気合がはいっているのが感じられる展覧会だった。(続く)


妻との想い出の道、丸の内仲通り


復元された三菱一号館。内部は美術館、カフェとなっている


美術館の中庭といっていい一号館広場。てまり型の白色の紫陽花(たぶんアナベラ)が今を盛りと咲いていた。



 美術館を核として、新商業ゾーン「丸の内ブリックスクエア」も誕生した。噴水のある一号館広場をショップや飲食店が取り囲み、ベンチやオープンカフェで近隣のOLさんたちや美術館を訪れた人びとがくつろぐ姿がみられる。なんて平和な光景なんだろう。


「ブリックスクエア」の仲通り側入口角に花屋さんがあり、様々な種類の紫陽花がディスプレイされていた。


妻を見舞った病院からの帰りに再び立ち寄ってみた。人工の光に浮かぶ花は、昼より妖しげで美しかった。