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髪結いの亭主 物書きの妻

映画の中の民俗行事-『女中っ子』

きょう1月15日は小正月。数年前までは成人の日で祭日だった。秋田県男鹿半島の全国的に知られている民俗行事-ナマハゲは、現在は12月31日の大晦日に行われているが、戦前までは小正月の15日夜の行事だった。これに関連して通称ハッピーマンデー法という悪法と小正月行事については、別ブログに書いた。


近所のレンタルビデオ屋で、かつては今夜暴れまくっていたはずのナマハゲが登場する珍しい劇映画を借りて見た。タイトルは『女中っ子』(監督:田坂具隆、1955)。秋田県の寒村から上京してきて、世田谷の住宅地で住み込みの女中として働く女性と、ヒネクレっ子の次男坊の心の交流を描いており、東北の素朴で芯の強い女性を演じた左幸子の溌剌とした演技と、田坂具隆(1902~1974)の丁寧な演出が印象に残る日活映画だ。ただ、ナマハゲの描写に関しては首をかしげる点があって、それが映画全体を安っぽくしているような気がした。女中の故郷は秋田県の内陸南部の雄勝郡あたりの設定になっていて、実家の家業はこけしをつくる木地屋。だが、そもそもナマハゲ行事は秋田県の内陸部では行われていないうえ、県南部の湯沢地方だけが産地の木地山こけしを作っている家に、ナマハゲが訪問することは、万にひとつもありえないことなのだ。
まあ、こうした伝統的な民俗行事を映画で取り上げる時は、奇異な点を強調するあまり実際の行事の場所や時間、決まり事などを一切無視し、撮影側の都合だけで行事の一部分だけを切り取ってしまうことが珍しくない。TVでは現在もヤラセも含めて普通に行われている行為で、脚本家、演出家をはじめとするスタッフの勉強不足と傲慢さはある種犯罪的ですらある。特にNHKがひどい。それに比べたら『女中っ子』のナマハゲ描写はまだましなほうかもしれない。


原作は芥川賞作家・由起しげ子の同名の小説で、私は映画をビデオで見たあと図書館から借りて読んだのだが、原作では女中の故郷は秋田ではなく山形になっていた。ところで、「女中」というのは現代では差別用語なのか、この映画の再放映、再上映の話はほとんど聞いたことがない。田坂監督の『女中っ子』から20年後の1976年に森昌子主演でリメイクされたのだが、その時は『どんぐりっ子』というタイトルになっている。私はこちらは未見だが、リメイク版では女中の故郷は原作通り山形県になっているそうだ。