Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

サン・ソレイユの心地よさ

友人からのメールに、ルイ・マルの『死刑台のエレベーター』を見た感想として、「いちばんよかったのはジャンヌ・モローのモノローグでした。全編モノローグのみの映画なんてないのだろうか?」と書いてあった。
そこで思い出したのがクリス・マルケルの『サン・ソレイユ』(1982)という全編モノローグのみの映画。正確には世界中を旅行するカメラマンからの手紙を女性が読むという形式になっていたけど。日本語版のナレーションは池田理代子(「ベルバラ」の作者ね)で、初めから最後まで言葉が途切れることなく映像にかぶさる。これがとんでもなく心地よかった。


ヒッチコックの「めまい」、アフリカとアイスランド、 豪徳寺の招き猫、青函連絡船で眠りこける人々、屋上の稲荷明神……それらの映像と池田理代子のナレーションから立ち現れるのは“時間と記憶”の感情……今から35年も前にお茶の水のアテネ・フランセで見た映画だけど、Toshibon's Favorite Cinemaの中では確実に10本、いや5本の指に入ると思う。
ちなみにサン・ソレイユ(Sans Soleil )とはフランス語で太陽なしで=「日の光もなく」という意味で、ムソルグスキーの歌曲のタイトルから引用したという。


『サン・ソレイユ』のほぼ同じ時期に日本で撮影された映画に『東京画』(公開は1985年)がある。W・ヴェンダースが小津安二郎へのオマージュを捧げた、これもモノローグの映画だったが、パチンコ屋、ゴルフの練習場、竹の子族、食品サンプル工場…ガイジン(欧米人)が奇妙に感じる日本。それらが全編にわたり冗漫に映し出されて、あまりにステレオタイプ、あまりに底が浅く薄っぺらな感性にメゲた記憶がある(ヴェンダースは『夢の涯てまでも』(1991)で再び東京を撮ったが、そこでもガイジンの見た勘違い趣味丸出しの日本を恥ずかしげもなく使っていた)。
『東京画』で唯一興奮したのは、新宿ゴールデン街のバーでクリス・マルケルが顔の半分(片目)だけ登場するシーンだった。ヴェンダースはそこで「この数日後見た彼の映画『サン・ソレイユ』は同じ外国人でも私にはとても撮れない映像で、東京をとらえた傑作だった」と率直に述べている。
西欧人が同じ日本(東京)を撮ったモノローグ映画(エッセイ映画)でも、『東京画』と『サン・ソレイユ』では、どうしてあんなに対象へのアプローチの仕方に差があるのだろう。


ここでもう1本全編モノローグの映画を思い出した。原将人の「初国知所之天皇」(1973)。「サン・ソレイユ」との共通点は、どちらも旅の映画(それも「旅の極北」とでもいうべき)だということだろうか。


ラ・ジュテ / サン・ソレイユ [DVD]
ラ・ジュテ / サン・ソレイユ [DVD]
アップリンク
2003-10-24
DVD

↑Toshibonが持っているこのDVDはナレーションは池田理代子ではなく、フランス語に日本語の字幕がついたもの。テリー・ギリアムが監督した『12モンキーズ』(1995)の元ネタになったといわれる『ラ・ジュテ』(これも傑作!)とカップリングで発売されたが、現在は廃盤となり、高額のプレミアムがついている。