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髪結いの亭主 物書きの妻

川渡温泉の馬市

つい最近、1941年(昭和16年)公開の『馬』(山本嘉次郎監督)という映画を見た。高峰秀子扮する農家の娘が手塩にかけて育てた仔馬との離別をテーマにした写実的な大作。山本監督がラジオで聞いた盛岡の馬市の実況放送にヒントを得て、東北各地を1年がかりで取材し脚本を書き上げたというだけあって、東北(ロケ地は岩手県と山形県)の農村の四季の移り変わりが、4人のカメラマンによる腰を据えた撮影で美しくとらえられている。


冒頭のシーンで盛岡馬検場を舞台にした馬市の場面が出てくる。この場面を見て、私は10年ほど前に宮城県鳴子町の川渡温泉で見た馬市のことを思い出した。毎年6月下旬の今ごろの時期に「川渡家畜場」で2歳馬のセリ市が開催されているのだが、その市を川渡温泉の藤島旅館自炊部に宿をとり、見学したことがあったのだ。


川渡の馬産の歴史は古く、明治天皇の御料馬を生産するなど「温泉馬」と呼ばれる名馬の産地として知られ、戦前は軍馬のセリで賑わった。最盛時にはセリが一週間も続いたというが、現在は生産農家も減少し、私が見た時は繁殖牝馬のアラブ馬(アングロアラブ)が主で頭数も少なく、わずか1時間ほどで終了してしまった。


藤島旅館自炊部には、馬市で2頭のアラブ馬を売った宮城県宮崎町(馬産地で知られる)の生産者が泊まっていたが、私が部屋に戻った時はすでに帰ってしまい、詳しい話を聞くことができなかったのは残念だった。


聞くところによれば、年々出場する馬が減少していることもあって、昨年、今年とセリ市が中止になったそうである。輸入のサラブレット一色の華やかな競馬ブームの陰で、地味なアラブ馬が飼われなくなっているのは、しかたがないことかもしれないが、川渡温泉の馬市の伝統がこのまま消えてしまうのは寂しい。


・今季のセリ市見送りを伝える「馬市ドットコム」



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