Toshibon's Blog Returns

髪結いの亭主 物書きの妻

続・東京日記 夜の晴海埠頭

東京駅南口から有楽町、銀座を経由して晴海埠頭、豊海埠頭、豊洲方面行きの都バスが出ている。利用するようになった20年前は、夜10時ころが最終バスだった。それが湾岸エリアに高層マンションが林立するようになって利用客が急増し、便数も増え(それでも夜はいつも満員だ)、11時~12時台には料金は高くなるが深夜バスも走るようになった。


先日、何の気まぐれか途中で降りず、そのまま終点の晴海埠頭まで行ってしまった。夜9時を過ぎていたこともあってか、終点の晴海客船ターミナル前で降りたのは私ひとり。客船ターミナルは閉まっていて入れないが、屋外の展望デッキは開放されている。2月の海風はさすがに冷たく、夜景マニアといえどこんな季節のこんな時刻にやってくるもの好きはいないのか、誰もいない夜のデッキにしばらくたたずみ、東京湾の夜景を飽かずに眺めた。


人影のない客船ターミナルの展望デッキ。左奥にレインボーブリッジ。
ピラミッドのような建物はターミナルビルの展望台だが、夜間は入れない。
(※晴海客船ターミナルは、2020年にお台場の青海埠頭に新設される東京国際クルーズターミナルの開業後は廃止される予定という)


港区竹芝~日の出桟橋方面を望む。暖色の光をまとった「哀愁の東京タワー
(By遠藤賢司)。ビルの陰にならずにその姿が見えると、いつも何だかほっとする。


対岸は築地から移転した豊洲市場。
海上に小さく浮かぶ光は、豊洲からお台場に向かう最終便の海上バスか。



晴海は2020年の東京オリンピックの選手村となる。その宿舎が今まさに建設中。



行方定まらぬその日暮らしをしていた1970年代、東京(晴海埠頭)と四国・高知、九州・鹿児島を結ぶ「さんふらわあ」という大型フェリーを何度か利用したことがある。旅暮らしに疲れて長崎から高知経由で戻った時もその船だった。着岸した晴海埠頭は、大きな建物もなく殺風景な場所で、黄色いセイタカアワダチソウが一面に咲いていた。私の晴海埠頭のイメージは、風に揺れるひょろひょろとした黄色い花と、成瀬巳喜男監督の映画『風立ちぬ』(1960)で、主人公の少年が少女に誘われタクシーに乗って向かった何もない埋立地の映画的記憶の中にある。


東京オリンピック選手村の高層宿舎と背後にきらめくタワーマンション群。東京タワーと高さを競う高層ビル。そして対岸(お台場)の光の帯。それらは私が晴海埠頭に降り立った40数年前の風景とは重ならない。過去と現在、どちらかが幻なのだろう。